●ストーリー&テーマ
舞台となるのは、1995年5月、阪神大震災の中心地である神戸、西宮から少し外れた街。とはいえ、その街にも家を失った人はたくさんいた。ただ震災中心地と違ったのは、家を失った人に比べて、大きな被害を被らなかった人の方が多い、ということ。

1995年5月は、自治体の用意した仮設住宅にようやく入居できるようになった時期で、学校の体育館・校舎などの避難所から、仮設住宅への引越が次々に行われていた。
舞台となる仮設住宅がある場所は、建売住宅が並ぶ地域。仮設住宅用地が不足していたため、壊れた家など一軒もないこの地域にも仮設住宅が建てられた。


引越ラッシュを迎えた1995年5月のある日、この仮設住宅にも引越ボランティアの手伝いで、様々な事情を背負った人たちが入居してきた。

川野親子は、60代後半の老父と40代中頃の息子の二人暮らし。
進行性の病を患っている老父の面倒を、息子が一人で見ている。
山地一家は、一人娘の足が地震の怪我で動かなくなった。彼女は車イスを使っている。母親は、元陸上部であった娘がまた走れるようになるまでは地震は終わらないと、スパルタの母になった。そんな母娘に挟まれた父の影は薄い。
愛野夫妻は新婚家庭。幸せであったはずの暮らしが、地震の瞬間の夫の絶叫「冴子!」の一言で崩れた。妻の名前は「恵」。その朝以来、妻の疑惑と夫の弁明ばかりの日々が続いている。
きみばあさんは独居老人。ボランティアの子に手渡されたファミコンが、
きみばあさんの暮らしを変えた。それ以来、与えられた「ファイナルファンタジー」を1作目から片っ端にクリアしていくきみばあさん…。


様々な事情を飲み込んだ、家賃タダのこの仮設住宅。思うにまかせない状況の中で、それぞれのドラマを生みながら、時間だけは着々と過ぎていく。「傷を癒してくれる」はずの時間の経過が、仮設住宅の住人に持たらしたもの…希望? 新たな旅立ち? 気づかれない死? …殺人?

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もちろん地震が人々の暮らしに与えた衝撃は計り知れません。しかし生きている者たちにとって「辛い、苦しい」だけでは乗り越えられなかったことも多かったはずです。ましてや、ここは関西圏。笑いとばすユーモアにも優れていたはず…。
様々な事情を抱えた様々な人たちが、突然降り注いだ事態をどのように受け止め、どのように乗り越え、何がどう変わっていったのか。

  人間のしなやかさとやさしさと浅はかさとせつなさを…
  仮設住宅に繰り広げられた人間模様のおかしさと哀しさを…

軽いタッチと深い愛を込めて書き綴られた作品です。